大阪地方裁判所 昭和43年(わ)970号 判決 1968年9月16日
主文
被告人を懲役四月に処する。
この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都港区赤坂七丁目六番一五号プリンスマンション内に「高野プロダクション」と称する事務所を置き、歌手の出演あっ旋などを業としていたものであるが、法定の除外事由がないのに、昭和四〇年五月二三日ごろ、歌手大下八郎こと大塚義光(昭和一七年七月一日生)との間に、同人の放送、レコード、映画、実演等の出演交渉の一切を被告人に一任し、同人は被告人の許可なくして他に出演することができないこと、被告人は右大塚に対し、一か月五万円を支払うほか興業一回つき一万五、〇〇〇円を支払うこと、右契約は当事者間に解約の意思表示がなされないかぎり一年ごとに更新されることなどを内容とするいわゆる専属契約を結んだうえ、別表記載のとおり、昭和四一年三月一二日ごろから昭和四二年一月三一日ごろまでの間、八回にわたり、京都市中京区烏丸御池上ル都ビル内娯楽観光株式会社ほか一一名と、同社らの指定する日時、場所に右大塚を出演させる旨の供給契約を結び、そのころ、同社らをして、京都府綾部市本町五丁目二四番地綾部劇場ほか一一か所において、右大塚を使用させ、もって、労働者供給事業を行なったものである。
(証拠の標目)≪省略≫
(労働者供給事業に該当する理由)
(一) 職業安定法四四条、五条六項に規定する「労働者」とは、職業の種類を問わず、他人の事業に使用される者で、賃金、給料等の労務の対償を支払われる者をいう(労働基準法九条、一一条、労働組合法三条)ものと解すべきである。したがって、労働者は、使用者の指揮、命令を受け、その監督に服するといういわゆる使用従属の関係に立つものであることを要するが、その労務は筋肉労働であると精神労働であるとを問わず、単純な労働であると特殊な能力を要する労働であるとをも問わない。
(二) また、職業安定法の前記法条に規定する「労働者供給事業」が成立するためには、①労働者供給事業者と労働者との間の雇用またはこれに類似する契約にもとづく支配従属の関係、(2)同事業者と受供給者との間の供給契約関係、(3)受供給者と労働者間の事実上の使用従属の関係の成立が必要であると解される。
(三) これを本件についてみると、被告人は判示専属契約にもとづき、大塚義光の出演を自由に支配できる関係を成立させたうえ判示受供給者と供給契約を結んでいるものである。また右大塚の歌手としての出演は、特殊な労務であり、出演の時間も短時間であって、受供給者との間に純然たる雇用関係が成立しているものとは認め難いが、出演の時間、場所等は受供給者の指定するところに従うものであり、出演に際しても、とくに企画およびその実施について自主性が認められているわけではなく、受供給者の指揮命令に従う関係にあったのと認められる。
以上いずれの点からみても、被告人の判示所為は職業安定法四四条に違反する。
(法令の適用)
判示所為について
職業安定法四四条、六四条四号(懲役刑選択)
執行猶予について
刑法二五条一項
(裁判官 伊沢行夫)
<以下省略>